
Artist's commentary
待ちぼうけ
ふと改札を見ると美希が所在なさげに立っていた。あわてて駆け寄ると、「おかえりなさいなの!」と華やぐような笑顔が咲いた。聞けばロケの仕事が終わってからすぐに、二時間近くもここで私の帰りを待っていたという。胸の締め付けられるような愛しさを感じて、彼女の頭を優しくなでた。嬉しそうに目を細め、「あのね…今日お泊りしてもいい?」と聞いてきた。あえて返事はせずに、肩を抱き寄せて一緒に歩き出す。暖かくなってはきたものの、いつもの薄着で夜風にさらされて鳥肌がたっていた。寒かっただろう、とまわした手で冷えた肌をこすってやる。犬のように甘えて身を寄せてくる美希だ。道すがらの自販機で温かいお茶を買って、回し飲みをしながら家路を急ぐのだった。 -了-