Artist's commentary
スピッキーとスピキの憂鬱 1Day
#トリッカル #Trickcal #트릭컬
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抜けるような青空が広がる昼下がり、一人の幽霊が教団に駆け込んできました。彼女の名前はスピッキー。幽霊沼の畑で、友人のかぼちゃたちの、身の回りの世話を焼くのが日課でした。というのも、彼女は世界樹から特別な祝福を授かっており、その力によって、彼女の世話をしているカボチャのみ、意思疎通を図ることができるのです。そんな彼女が、大切にしているかぼちゃを抱え、何か思いつめた様子で教団の主、教主にすがりつくのでした。
「朝からスピッキーのかぼちゃの様子がおかしいのです。」
「お腹が痛いって、ずっと苦しんでいて、教主は何か分かりませんか?」
……そう言われても、ねぇ。
「病気や虫じゃないかな?」
彼女は幽霊沼でカボチャの世話を続けて数十年、いや、もしかしたら数百年はかぼちゃの面倒を見続けていたかもしれない。そんな、かぼちゃの世話をするなら、右に出る者がいないほどのプロ農家です。当然、既に検討済みだろうと、思いつつも教主はそう答えるしかありませんでした。
いくら観察しても、彼女のかぼちゃは至って健康体そのものでした。ハエの類の産卵痕や侵入痕、細菌やカビの入り込むような傷口などは一切見当たらないし、受粉不良や過剰な肥料の効きすぎによる実の異常な肥大化も確認できませんでした。
私に聞いた所でどうしようもないじゃないか。と、心の中で毒づきながらも、何か分からないかと、かぼちゃにめいいっぱい顔を近づけて観察していた教主は、あることに気が付きました。
「中で何か動いている音がする……」
「……え? スピッキーには何も聞こえません!」
これは、世界樹の祝福を受けていない教主だからこそ、拾えた音でした。皮肉な話です。スピッキーの耳はかぼちゃの「声」で満たされすぎていたのです。世界樹の祝福がかき消すノイズの向こうで、おぞましい何かが、彼女の友達であるかぼちゃの内側を這いずり、蝕んでいる音に、彼女だけが気がつけずにいたのです。
「ピキ」
教主とスピッキーが、必死に耳を澄ませていたその時でした。無骨なかぼちゃ似つかわしくない、愛らしい音が響きました。
それを最後に、あんなにあふれていたかぼちゃの声は、ぷつりと途絶えてしまったのです。「……しゃべらなくなっちゃった。」
かぼちゃは、死んでしまいました。
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その時でした。
「めりっ」
かぼちゃが大きな音を立て、分厚いかぼちゃの皮が内側から崩れ落ちました。
ぽっかりと空いた大穴。それは明らかに、虫や病気などが引き起こせる類のものではありませんでした。
力なく転がっていく、カボチャの皮の破片を教主は呆然と眺めることしかできませんでした。
「あ…あぁ……スピッキーのかぼちゃ……」
教主はそんな非現実的な光景よりも、隣で涙を流しながらガタガタと震えている彼女のことが気になって、仕方がありませんでした。
彼女はエーリアス人
死の概念が存在しない世界で育ってきた幽霊です。
本来の彼女の世界では、この世界での人生ならぬ「かぼちゃ生」を全うした友達は、皆幸せな「週末農場」という世界へ旅立つはずでした。それがどうでしょう。友達は無残に中身を散らし、ただの物体として死に絶え、腐ってゆくのです。
あまりに凄惨なこの状況は、彼女の心を砕くのに十分すぎました。
しかし、現実は待ってくれません。2人が呆然としている間にも、状況は刻一刻と変化していくのでした。「アーウ!!」
友の死骸が散乱する、凍り付いた静寂。その地獄のようなよどんだ空気を切り裂くように、どこか場違いな可愛らしい声が響きました。
この状況に不釣り合いな甘ったれた産声でした。友であったカボチャの命をゆりかごにして、新たな命がその産声を上げたのです。
カボチャの中で蠢く謎の存在は、私を甘やかせと、母親を求め、愛をねだる生命力に満ちた高らかな主張でした。
教主は絶句しました。
真っ黒な修道服に、金の刺繍、ウィンプルに隠された高貴な薄い金色の髪の毛に、どくろのお面。
かぼちゃの中から顔をのぞかせたのは、間違いなくネルでした。しかし、教主の胸に小さな、けれど消えない違和感が残りました。
ーー果たして、彼女はこれほどまでに残酷な人物だっただろうかと。
確かに、スピッキーが彼女に成り代わろうとした時、確かにネルは憤りを覚え、厳しく叱責した。しかしそれは道理であり、決して「復讐」ではなかったはずだと。
ましてや、スピッキーの大切なかぼちゃを苗床にして産まれなおしてまで、誰かを追い詰めるような陰湿なまねをするでしょうか。教主はしばらく考え、静かに瞳を開けた。
「お前、ネルじゃないな。」
その言葉が放たれた瞬間、目の前の謎の存在を包むウィンプルがざわりと揺れた。
「アーウ!!」
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ほころびを見つけた瞬間、完璧だと思えた擬態は瞬く間に崩れ去り、目を凝らすほど、本物のネルとかけ離れた異質さが浮き彫りとなっていきました。
本物のネルの瞳は、まるで精巧にカットされたサファイアのように、清冽で、高貴なかがやきを有しています。しかし、かぼちゃから出てきた謎の存在はどうでしょうか。
そいつの瞳には色彩がありません。ただの真っ黒な瞳です。
それに、いくらエーリアス人が小柄とは言え、ネルはカボチャに収まるほど矮小ではありません。かぼちゃから出てきた存在がネルでなければ、恐れるものは一切ありません。
先ほどの教主の震えは何処へやら。スピッキーのカボチャを台無しにした不届き者を捕まえるべく、教主はこれ見よがしに胸を張ると、強気にかぼちゃの穴に手を突っ込んで、あっという間に捕まえてしまいます。
何が潜んでいるかわからない、腐ったかぼちゃの空洞に腕を突っ込むなど、正気の沙汰ではありません。しかし、エルフィンに連れ回され、虫取りに明け暮れる日々を送る教主にとって、そのような懸念はもはや些末な問題に過ぎませんでした。「二ひき……ふたり……二匹入ってた。」
一匹は先ほど、カボチャの穴から見えた、修道女服を着たもの。
もう片方は、メイド服を身に包んだスピッキーに瓜二つの可愛らしい姿でした。「アーウ…」
かぼちゃの穴に近いほうにいた個体は、自分の身よりも一回りも二回り以上も巨大な教主に怯えきってしまい、弱々しく鳴き声を上げることしかできませんでした。
「ウワアアアア!スピキモリチャバダンギジマセヨ! ネルヌンイロッケポンニョクチョギンヨッカリアニランマリエヨ~~!!」
もう片方の個体は、かぼちゃのより深いところに潜り込んでいたようで、捕獲されたことに驚いて、状況が把握できず、混乱し暴れています。
二匹の謎の生き物をつかまえた教主の脳内では、高速で電卓がはじかれていました。
適切な水槽の値段、敷き詰める木材チップ、エサのカブトムシゼリー。計算の途中で教主は冷酷な現実に突き当たりました。圧倒的にお小遣いが足りないのです。彼はすぐさま思考を切り替えました。水槽はダイソ○ーの緑色の虫かご、床材はビッグウッドに木片をねだればよい。
なりふり構わぬ代替案だが、そこに妥協はない。捕らえた生き物の生活を如何に守るのか。それは飼い主の責任であり、本能であった。

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